2010年5月1日土曜日

報告書の書き方 Ⅳ ―裏ワザ編―

 ここまで3回、報告書に対する筆者の考え方をお話ししてきたが、「そうは言うけど、なかなか実践は・・・。」というご意見もあろうかと思う。「逆三角形法」「情報のポージング」については、残念ながら地道なトレーニングでスキルを上げていくしかない。一方で、二段階報告の「速報」については、ある程度コツや要領をつかめば、作業を効率化できる。そこで今回は、迅速に速報報告を行うためのテクニックをご紹介したい。ただし、これはあくまで裏ワザであり、NPOの方々には、このやり方だけで十分とは決して考えないでいただきたい。また、企業担当者の方にとっては、手の内をバラすことになるので、実はあまり読んでいただきたくない。今回は、そんな苦悩のコラムである。

【 下書きのススメ 】

 料理を作ることを想像して欲しい。市場に出かけ、あまたの食材の中から今日のオススメを目利きし、食べる人のことを考え、その食材を最も活かす料理を創意工夫で創作する。時間も手間も技術も必要なプロの技だ。一方、最初からカレーライスを作ると決め、冷蔵庫の残りモノとレシピを照らし合わせ、炊飯器のスイッチを入れつつ足りない食材だけをスーパーに買いに走る。これなら、味はともかく短時間で料理が可能だ。これを報告書に置き換えて考えてみる。もちろん、正式な報告書は前者、速報は後者だ。

 資料類を整えることもさることながら、報告書作成の一番のハードルは、現場で起こった全ての事柄を思い返し、その中から報告に値する情報を吟味する作業ではないだろうか。たしかにこれには時間がかかるし、慌てて適当にやるべき作業でも無い。成果をアピールする書類なのだから、じっくり作ってしかるべき「創作料理」だと言える。しかし、速報報告の場合は、最低限伝えるべき情報を、迅速に伝えるのが役目。伝えるべき項目は、あらかじめ決まっている。であれば、現場でその項目を意識して見ておくだけで、あとであれこれ悩むことは減るはずだ。

 急いで伝えるべき内容とは、主に前コラムで例示した6項目。加えて、「冷蔵庫の残りモノ」と例えたように、これらの項目の中には食材をわざわざ買いに行かなくても、言い換えればイベント本番が終わらなくても、事前に準備しておける情報も含まれている。本番が終了するまで報告書に着手してはいけないという約束事はどこにも無い。来場者数以外の必要データ、メディア取材のアポなどをもとに報告書の下書きをあらかじめ作成し、どうしても本番後にしか分からない項目だけを空白にして準備しておけば、速報報告に要する時間は大幅に短縮できる。加えて事前準備をオススメしたいのが「お礼の言葉」。現場の慌しさの中で丁寧なお礼文を書こうとしても、なかなか使い慣れない美辞麗句は浮かばないもの。焦ってヘンテコな文章を送ってしまっては、失笑ものだ。また、メールの宛先や報告先の正式部署名なども手元に準備しておきたい。モバイル環境を所有しているなら、「それは事務所に帰らないと分からない!」ということは無いようにしたいものだ。

【 来場者の評価を集める手法 】

 一方、絶対に本番後でないと書けない報告内容が「所感」。これだけは、事前作成したのではただの「妄想」になる。内容は主観論だけでもことは足りるが、より印象的に訴えるためには、来場者など第三者の評価も盛り込みたいところ。かと言って腰を落ち着けてインタビュー取材する余裕もなく、来場者アンケートの集計がその場で出来るわけでもない。これを解決する手段として筆者が実践しているのが「立ち話法(筆者命名)」。やり方は簡単。イベント終了後、興奮冷めやらぬ雑踏の中、関与者もしくは熱心に鑑賞していた来場者に歩みより、気楽に短く雑談し、その内容を記憶するだけ。紙もペンも持たないから、相手も身構えずに一番素直な本音を聞くことができるし、ターゲットを見つけたときにすぐ実施できる。実際の会話は、こんな感じだ。

<子ども向けワークショップでの、保護者と筆者の会話例>

筆者 「保護者の方ですか?
企画制作しているものですが、ご覧になって、いかがでしたか?」
来場者「すごく良かったですよー!」
筆者 「やはり、普段のお子さんの様子とは、違いましたか?」
来場者「ええ、普段は引っ込み思案なんですが、
今日は本当に活き活きしてて、びっくりしました。」
筆者 「そうですか!(嬉) もっとこんな機会を増やしたいと思ってるんです」
来場者「良いことですね。学校でも、こんな授業があれば良いのに。」

 これを2~3人繰り返し、傾向をざっくり理解する。所要時間は数分。速報報告用途なら、これで十分。これを速報報告用に文章にすると、、、、

『また、保護者の目から見ても、普段と違う子ども達の活き活きとした姿が印象的だったようだ。学校等の教育現場において、同様の取り組みの実施を望む声“も”聞かれた。』

 ポイントは、自身が知りたいと思う内容を会話の中に盛り込むこと。保護者数人にヒアリングした感触として、「筆者が聞いた範囲では、保護者はこう感じているようだ」というテイストで文章化すること。そしてこれを示すため、助詞である“も”を活用すること。日本語とは、実に便利である。


 以上をもって、コラム「報告書編」は、ひとまず終了。ご愛読、ありがとうございました。
 次回より、「企画書編」を掲載予定です。