2009年12月1日火曜日

ウッカリはゲンキン

【 過ぎてからの手紙 ―love letter from partner―  】

これは、実体験に基づいたフィクションである。主人公はある企業のメセナ担当者。数年の経験を経て、兼務する業務も増え、日々忙しく過ごしている中堅社員だ。
「あれ?この請求書、先月のイベントの分じゃん!?」月初二週目に入ろうかという頃、担当者宛に封書が届く。開けてみると、先月初めに実施した協賛のイベントの請求書。発行日付は当月1日となっている。それを郵便で発送したものだから、休日の関係もあり、担当者の手元に届いたのがこの時期になったようだ。「もー!早く送れって言ったじゃん!」と毒づきながら、あわてて経理部に駆け込む担当者。「締め処理が終わりましたので、次月度処理ですが。。。。」気まずそうな経理担当者。請求書の未着に気がつかなかったのは、担当者のミスでもある。無理を通すのは筋違いだと思い直し、すごすごと自部署に引き上げた。

企業人にとって、月度締後の大事な仕事である「支払い処理」。これは、前月度に発生した経費を処理する作業、具体的には自部門でチェックした請求書の束を経理部門に送り、請求先への支払いを依頼する業務だ。これをミスると請求先に費用が支払われない。そうなれば我社の信用問題、“間違いなくきっちりと”処理を行って当たり前の業務である。
こうした処理は、企業ごとのルールに従って実施される。この企業の場合、経費発生月の月末で締めて、翌月の20日(指定日)に相手先の指定口座に振り込むのが「当月処理」。たとえば、11月1日に発生した経費なら、11月末日に請求書を受け取り、12月20日に指定口座に振り込む。「次月度処理」とはイベント実施月の二ヵ月後、この場合は1月20日にお金が振り込まれるということ。自社のパートナーNPOにとって、これが厳しいことは容易に予測できる。今回はしかたなく上司に相談し、特別処理として12月中に振り込むことにした。「この案件、準備費用として半額を前払いしたヤツだろう。資金繰りが苦しいんじゃなかったのか?」とチクリ。担当者は必死に弁解するハメになった。

【 未来予想図は、ほら、思った通りに?! 】

経費について、きっちり行わなければならないのは支払い処理だけではない。どの月度でどれだけの経費を使うかという「予測」も重要だ。企業によっては、月に複数回、当月の発生経費額の予測と、通年の予測額を経理部に提出し、予測と実績のズレが大きい場合には、理由を報告しなければならない。なぜそこまでする必要があるのだろうか。
それは、経費の使用状況が、企業の業績予測と密接に関係しているからにほかならない。特に昨今、上場企業は四半期決算(3ヶ月ごとに企業の業績を開示すること)が義務化されたことから、従来よりも短いスパンで経営状況を投資家から判断される。決算発表では、この三ヶ月間でいくら売り上げて、いくら利益が上がったか、半年後、一年後の見通しはどうかなどの情報が開示される。このための数値を取りまとめているのが経理担当の部門。経理には全社の各部門から売上げや経費の情報が日々集められ、月度ごとに細かく分析されている。経営者はそれをチェックし、今後の経営の動向を見極める。見通しが悪ければ、単月単位での経費の見直しや発生月の変更指令が出され、会社全体としての収支が調整される。こうして、売上、利益など詳細な項目ごとに、目指す決算数値(目標)と実績を近づけていく作業が、企業内では日夜繰り返されている。

【 あの金を ズラすのはどなた? 】

「たかが小額協賛、売上額からすれば微々たるもの」とのご意見もあろうが、そうではない。営利企業の場合、協賛金支出の原資となるのは、売上から生じる利益。ごくごく簡略化して説明すれば、たとえば経常利益率が5%の企業の場合、10万円の協賛金を捻出するためには、その20倍の200万円を売上げなければならないことになる。これを小額と言うかは企業規模にもよるが、営業担当者個人にしてみれば、月度成績を左右する金額ではなかろうか。つまり、“たかが”10万円の経費の発生月がズレるということは、200万円“もの”売上金の発生月がズレることに等しい。こんなことを無計画に各部署でやられては、とても正確な収支見通しなど立たない。厳しく予算を管理する理由が、ご理解いただけるだろうか。
加えて、これに「決算」という概念が絡むと、さらに始末が悪くなる。特に本決算は企業にとっての大きな区切り、今期と次期の収支は連続しない。つまり、支払いが本決算をまたいで遅延すると、今期には「実施はあるが支払いのない案件⇒サービス業務の強要?!」が、来期には「実施は無いが支払いだけある案件⇒不当な利益供与?!」が存在することになる。要らぬ濡れ衣を着せられる可能性など、最初から無くしておきたいものだ。

【 相談しよう、そうしよう 】

一方から見て些細に見える出来事でも、一方にとって重大な意味を持つことも多い。企業もNPOも、相手に感じる「なぜ?」の理由を、知る努力を怠ってはいないだろうか。「ある時払い」も「余裕が無いから、先に欲しい」もNPOにとって日々刻々と変る現実。一方、臨機応変ではなく「計画的にキッチリ予算執行したい」は企業の理屈。双方にとって真っ当な事情なら、双方に納得性のある落としどころを“事前に相談”して決めるしかない。そして、止まれぬ事情により約束が履行できそうにないなら、これまた事前に相談しさえすれば多くの場合は事なきを得る。ナマモノを扱う現場である以上、計画通りに行かなくても不思議ではないことは、企業だって理解している。それだけに、片方の都合での勝手な解釈や、ケアレスミスによる処理の遅れは、信頼関係にヒビを入れるから要注意。つまり、自分勝手やウッカリは“ゲンキン”。今回は支払いの話題だけに、このようなオチで勘弁していただきたい。