2010年2月8日月曜日

報告書の書き方 Ⅰ

 年度末が近づいてくると、報告書の提出期限に焦る方も多いのではないだろうか。本コラムでも「報告書は重要!A4一枚にまとめて書け!」とは繰り返し述べてきたが、じゃあ具体的にどうすれば良いかは書いていなかった。というわけで、今回から「企業に理解されやすい報告書」を書くためのテクニックを、シリーズでご紹介しよう。*講座方式のため、しばらくフザケタ小見出しは封印します。

【 基本テクニック「逆三角形法」 】

 テクニックの中で、筆者が最も重視しているのが「逆三角形法」。簡単に言えば「結論から先に伝えよ」というコミュニケーション術。面接のHOW-TO本等にもかかれており、企業人なら一度は意識したことがあるハズだ。例文を見てみよう。

<例文A 理事長と副理事長の通常の会話>

副理事長
問1) 眠そうだね。昨夜、何してたの?

理事長
答1) 宿題だったワークショップの企画を考えてたら、煮詰まっちゃって。
答2) ネタ探しに本屋に寄ったら、好きな作家の新刊を見つけちゃって。
答3) 結局自宅で、その本を朝まで読んじゃって、寝てないんです。

<例文B 理事長と副理事長の逆三角形法の会話>

副理事長
問1) 眠そうだね。昨夜、何してたの?

理事長
答1) 朝まで自宅で読書してて、寝てないんです。
答2) 帰りに寄った本屋で、好きな作家の新刊を見つけたもので。
答3) ちなみに宿題のワークショップの企画は、まだ。。。

 どちらの文例も内容は同じ。ただ、伝える順序が違うだけだ。例文Aの場合、もし答1)の時点で会話が遮られた場合、理事長が眠い理由はWSの企画を考えていたから、答2)の時点なら本屋で夜遅くまで立ち読みしていたと誤解されてしまう。眠い理由は、「自宅で読書していて寝てない」ことなのだから、これが的確に伝わらなくてはならない。その次に、読書に到った理由や背景。WSの企画云々は、実は問1)とは直接関連性の無い情報なので一番最後。このように情報を重要な順にレイアウトするのが逆三角形法、起承転結の逆だ。こうしてみると“たいしたことないじゃん”と思われるかもしれないが、これを常に意識して会話するのは意外と難しい。まして、長文を逆三角形法で構成するには訓練が必要で、それが出来るのは企業人でもそれほど多くない。

【 伝えるためのスキル 】

 ではなぜこんなスキルが必要なのだろうか。それは「資料なんて、まともに読んでもらえないと思うべき」という考え方に由来する。誰だって忙しい。日々膨大な情報がやり取りされる企業内で、資料なんて最初の部分だけをナナメ読みされて、興味が無ければそのまま捨てられてしまうことだって少なくない。ならば、せめて一番伝えなければならない内容だけは誤解なく伝え、一見しただけで「その資料は読む価値がある」と思わせるようにしたいもの。逆三角形法とは、そうした必要性からビジネススキルとして定着してきたように感じられる。

 難易度の高いスキルだが、これを企業の中で日常的に実践している部門が広報部門。話が少々脱線するが、企業広報担当者は新聞等のメディアに情報を出す際、「プレスリリース」と呼ばれる紙資料を作成している。これは、伝えるべき情報を逆三角形法で記述したもので、広報担当者にとっては“あたりまえ”のスキル。ちなみに、(社)企業メセナ協議会の2008年度調査によれば、メセナ担当部門をこの広報関連部門に設置している企業は回答企業の42.8%にも上るのだとか。つまり、NPOが協賛窓口として書類を提出するのは、「伝えるための文章」の達人相手ということになる。

【 報告書への展開 】

 では、実際に逆三角形法の報告書とは、どのようなものだろうか。何も全て文章で書けというわけではない。伝えたい内容を項目ごとに段落や箇条書きの塊にして、それを伝える優先度が高い順にレイアウトすればOK。当然、最も重要なのは「結論」なのだから、これを第一段落とする。そうすれば、書類のタイトルと第一段落を読むだけで、その企画のおおよその結果が理解できるようなる。第2段落以降は、日時や参加人数などの「データ」、「報道結果」、「参加者の反応」などを優先順位を考慮して配置する。
 「そんなにたくさん、A4一枚に書ききれないよ!」と思われるだろうが、A4一枚に記述するのは、あくまで各項目ごとに表現したい内容の要約。項目の中で重要度の低い情報を省くことで、「情報の明瞭度」が向上し的確に主旨が伝わるようになる。その結果書ききれなかった部分は「補足資料」として添付れば良い。理事長との会話の例で言えば、夜通し読んだ本のタイトルや作者、発行年月日などの必須情報はA4に書き、本の内容や感想などの詳しい内容は「補足資料」。そうすれば、その本を知っている人間にとってはA4一枚だけで“ああ、あれか”と思うだろうし、知らない人間にも不足なく情報を伝えることができる。
 A4一枚の報告書とは、報告全体から見た場合に「最も伝えたい内容の集合体=報告総量の第一段落」として機能すべきものだと言うことを、覚えておいていただきたい。

 そして、ぜひ報告書に付け加えたいのが、「所感」や「今後の方針」など。これらは直接的に優先順位を判断できない内容だが、報告書のスパイスとして重要なもの。報告書は終わりの挨拶ではなく、次回の協賛依頼へのネタ振り。成功した企画なら、相手の機嫌の良いうちに次の展開を匂わせておくだけで、次回の協賛依頼のハードルがぐっと下がるのだから。(次号に続く)


*筆者作、逆三角形の文章構成モデル「伝えて!マッチョマン!」
 なぜこのようなモデルなのかは、次回以降のコラムにて。