2010年3月1日月曜日

報告書の書き方 Ⅱ ―情報のポージング―

【 情報のレイアウトとポージング 】

 先月号のコラムでは、報告書の逆三角形法構成モデルとして「伝えて!マッチョマン!」をご紹介した。なぜマッチョなのかというと、単にボディビルダーの逆三角形の肉体美をもじっただけでなく、実はもう一つ理由がある。ボディビルの審査会を思い出して欲しい。ボディビルダーは、直立不動で審査を受けるわけではなく、自信のある部分の筋肉を誇示するために各種ポーズをキメているはず。この「ポージング」の発想を、ぜひ逆三角形法にも取り入れていただきたいからだ。一体何のことかと思われるだろうが、あくまでイメージ。例えて言えば情報をレイアウトすることは、いわばマッチョな肉体を創り上げる筋トレ作業。同じ肉体でも、見せ方によって印象は変る。相手に響く報告書に仕上げるためには、鍛え上げた肉体をどう見せるかにも注意を払う必要があるということだ。

 筆者は「報告書は、“誰宛”に出すかによって内容が変化する」ものだと考えている。報告を受ける関与者は、それぞれに関与動機が違うからだ。例えば、アナタがメセナに積極的な大手企業の支援を受け、コンサートを企画したとしよう。それだけでは予算が足りず、付き合いのある地元企業から、自社製品である音響機材を無償(現物支給)で借りたとする。さて、この場合、2社に提出する報告書は、どんな内容になるだろうか。まず基本パターンとして、大手支援企業に行う報告のレイアウトを考えてみよう。

【 基本パターン:大手支援企業への報告例 】

 <タイトル 「○○○○○のご報告書」>
 第一段落:成否の概要・要約
 第二段落:必要データ(日時、場所、集客数など)
 第三段落:具体的な実施内容(作品の内容など)
 第四段落:成果の表現と評価(観客の反応、メディア露出など)
 第n段落:今後の展開見込み等(次回へのネタフリ)
 添付資料:予算消化の内訳、写真データ、パンフレットなど

 企画意図に賛同して支援した企業にとっては、第一に意図が達せられたのかどうかが気になるハズだ。(必ずしも“達成”だけが成果ではないが。)達成したなら、それがいつ、どのような形で実現されて、評価はどうだったのか、という順に報告を受ければ、きっと伝わりやすいだろう。企画全体の成果から判断した場合、「音響機材の無償調達」の報告優先順位は、残念ながら低い。協賛クレジットの表記を除けば、せいぜい予算書の中に記載される程度ではないだろうか。

【 変形パターン:地元企業への報告例 】

 一方で、地元企業にとっては、音響機材がちゃんと機能し、お客様に「良い音」でコンサートを楽しんでもらえたのかどうかが、最も気になるハズ。しかし、基本パターンの報告書には、そのことは書かれていない。担当者と面談の機会があれば口頭で補足することもできるが、書類とは企業内で補足説明を伴わずに回覧されることを想定して作るべきもの。結局企業担当者は、機材提供に関する補足を自分で付け足す羽目になる。もし担当者がこれを怠れば、機材協賛の成果は上司に伝わらない。そうして上司が「ウチ的には頑張って機材提供したのに、あまり必要で無かったのかも。。。」と協賛効果を疑問視しはじめたら・・・・。次回の協賛依頼は厳しいものになることは必至だ。地元企業宛の報告には、基本パターンではなく、機材協賛に関する段落を新たに設けるか、第一段落に音響機材についてなんらかの記述を加えるなどのアレンジが欲しいところだ。
つまり、直立不動の基本パターンでは下の方に位置せざるを得ない情報でも、提出する相手に合わせて意図的に目立たせるためにレイアウトを工夫する。これが「情報のポージング」(筆者造語)という概念だ。一方、逆のポージングとして、特に伝える必要が無い情報を意図的に省くことで、相手の印象をある程度左右できてしまうことも、覚えておいて損は無い。ポイントは、「変装」ではなく、あくまで肉体そのものは変化させない「ポーズ」であること。虚偽報告は言語道断なのでご注意を。

【 ポージングは、A4一枚で 】

 こうした観点から言えば、基本パターンの報告書を最初に作り、関与者ごとにレイアウトを変化させて、別々の報告書を提出することが親切であると言える。「そんな何種類も作れないよ!デザインだって大変だし」と思った方は、前コラムの「A4一枚資料」の事例を思い出していただきたい。提出先ごとに書き換えるのは、A4の方だけで十分。これなら、それほど手間はかからないだろう。あとは添付資料を重ねてホッチキス留めする順序を、A4のレイアウトに沿って変えれば良い。A4一枚方式には、こんなメリットもあるというわけだ。

 報告書とは、「相手の知りたいこと」「こちらが知らせたいこと」「知らせる必要の無いこと」の3つの視点からアレンジが許されるべきもの。今後の展開を有利に進めるための戦略ツールであると理解すれば、報告作業もいくらか気合も入ろうというものだろう。少なくとも「出さなきゃダメだから出す」という受身の姿勢では、せっかくのコミュニケーションの機会を減少させてしまう。非常に勿体無い話である。
*次号に続く



*ポージングの例。
①では、4段落を強調し、3段落を意図的に目立たなくしている。