2010年5月1日土曜日

報告書の書き方 Ⅳ ―裏ワザ編―

 ここまで3回、報告書に対する筆者の考え方をお話ししてきたが、「そうは言うけど、なかなか実践は・・・。」というご意見もあろうかと思う。「逆三角形法」「情報のポージング」については、残念ながら地道なトレーニングでスキルを上げていくしかない。一方で、二段階報告の「速報」については、ある程度コツや要領をつかめば、作業を効率化できる。そこで今回は、迅速に速報報告を行うためのテクニックをご紹介したい。ただし、これはあくまで裏ワザであり、NPOの方々には、このやり方だけで十分とは決して考えないでいただきたい。また、企業担当者の方にとっては、手の内をバラすことになるので、実はあまり読んでいただきたくない。今回は、そんな苦悩のコラムである。

【 下書きのススメ 】

 料理を作ることを想像して欲しい。市場に出かけ、あまたの食材の中から今日のオススメを目利きし、食べる人のことを考え、その食材を最も活かす料理を創意工夫で創作する。時間も手間も技術も必要なプロの技だ。一方、最初からカレーライスを作ると決め、冷蔵庫の残りモノとレシピを照らし合わせ、炊飯器のスイッチを入れつつ足りない食材だけをスーパーに買いに走る。これなら、味はともかく短時間で料理が可能だ。これを報告書に置き換えて考えてみる。もちろん、正式な報告書は前者、速報は後者だ。

 資料類を整えることもさることながら、報告書作成の一番のハードルは、現場で起こった全ての事柄を思い返し、その中から報告に値する情報を吟味する作業ではないだろうか。たしかにこれには時間がかかるし、慌てて適当にやるべき作業でも無い。成果をアピールする書類なのだから、じっくり作ってしかるべき「創作料理」だと言える。しかし、速報報告の場合は、最低限伝えるべき情報を、迅速に伝えるのが役目。伝えるべき項目は、あらかじめ決まっている。であれば、現場でその項目を意識して見ておくだけで、あとであれこれ悩むことは減るはずだ。

 急いで伝えるべき内容とは、主に前コラムで例示した6項目。加えて、「冷蔵庫の残りモノ」と例えたように、これらの項目の中には食材をわざわざ買いに行かなくても、言い換えればイベント本番が終わらなくても、事前に準備しておける情報も含まれている。本番が終了するまで報告書に着手してはいけないという約束事はどこにも無い。来場者数以外の必要データ、メディア取材のアポなどをもとに報告書の下書きをあらかじめ作成し、どうしても本番後にしか分からない項目だけを空白にして準備しておけば、速報報告に要する時間は大幅に短縮できる。加えて事前準備をオススメしたいのが「お礼の言葉」。現場の慌しさの中で丁寧なお礼文を書こうとしても、なかなか使い慣れない美辞麗句は浮かばないもの。焦ってヘンテコな文章を送ってしまっては、失笑ものだ。また、メールの宛先や報告先の正式部署名なども手元に準備しておきたい。モバイル環境を所有しているなら、「それは事務所に帰らないと分からない!」ということは無いようにしたいものだ。

【 来場者の評価を集める手法 】

 一方、絶対に本番後でないと書けない報告内容が「所感」。これだけは、事前作成したのではただの「妄想」になる。内容は主観論だけでもことは足りるが、より印象的に訴えるためには、来場者など第三者の評価も盛り込みたいところ。かと言って腰を落ち着けてインタビュー取材する余裕もなく、来場者アンケートの集計がその場で出来るわけでもない。これを解決する手段として筆者が実践しているのが「立ち話法(筆者命名)」。やり方は簡単。イベント終了後、興奮冷めやらぬ雑踏の中、関与者もしくは熱心に鑑賞していた来場者に歩みより、気楽に短く雑談し、その内容を記憶するだけ。紙もペンも持たないから、相手も身構えずに一番素直な本音を聞くことができるし、ターゲットを見つけたときにすぐ実施できる。実際の会話は、こんな感じだ。

<子ども向けワークショップでの、保護者と筆者の会話例>

筆者 「保護者の方ですか?
企画制作しているものですが、ご覧になって、いかがでしたか?」
来場者「すごく良かったですよー!」
筆者 「やはり、普段のお子さんの様子とは、違いましたか?」
来場者「ええ、普段は引っ込み思案なんですが、
今日は本当に活き活きしてて、びっくりしました。」
筆者 「そうですか!(嬉) もっとこんな機会を増やしたいと思ってるんです」
来場者「良いことですね。学校でも、こんな授業があれば良いのに。」

 これを2~3人繰り返し、傾向をざっくり理解する。所要時間は数分。速報報告用途なら、これで十分。これを速報報告用に文章にすると、、、、

『また、保護者の目から見ても、普段と違う子ども達の活き活きとした姿が印象的だったようだ。学校等の教育現場において、同様の取り組みの実施を望む声“も”聞かれた。』

 ポイントは、自身が知りたいと思う内容を会話の中に盛り込むこと。保護者数人にヒアリングした感触として、「筆者が聞いた範囲では、保護者はこう感じているようだ」というテイストで文章化すること。そしてこれを示すため、助詞である“も”を活用すること。日本語とは、実に便利である。


 以上をもって、コラム「報告書編」は、ひとまず終了。ご愛読、ありがとうございました。
 次回より、「企画書編」を掲載予定です。

2010年4月1日木曜日

報告書の書き方 Ⅲ ―提出のタイミング―

 前稿二回で、逆三角形法による「情報のレイアウト」、報告書の提出先によって報告内容を変化させる「情報のポージング」についてご紹介した。今回はそれに加えて、「提出のタイミング」についてお話したい。いつも提出を急かされる報告書。では、いつ出すのが適切なのだろうか。本コラムでは、筆者が考える一つの基準と、急かされるプレッシャーを回避する術について考えてみたい。

【 “時間の区切り”を意識せよ 】

 「一ヶ月経ってもまだ報告書が来ない」と企業側。「まだ一ヶ月しか経ってないから出来てない」とNPO。さて、どちらが正しいのだろうか。一ヶ月が長いのか短いのかは、当事者の主観論。筆者としては、どちらも正しくないと思っている。これは、企画終了後○○日までに、という「時間の経過」を基準として報告書の提出期限を考えているから起こる問題だ。
 意識していただきたいのは、時間の経過ではなく「区切り」。つまり、「月度」「四半期」「年度」など、企業側の事業期間がなんらかの形で区切られていることと、報告書は密接に関係している。企業にとって区切りとは「その期間の成果を評価」し、「次の期間のための計画を作る」タイミング。多くは会議を開くなどして、こうしたことを話し合っている。企業が報告書を必要とするタイミングとは、こうした場面。「報告書は、企画終了後の直近の“区切り”までに出すのが望ましい」となる。
 最も一般的な区切りは「月度」で、当月に実施した企画は、当月内になんらかの評価をするのが基本。「今月に協賛したが、結果がまだ分からない」では、担当者は赤っ恥だ。つまり、例え3月20日に実施したイベントでも、支援企業の月度会議が月末の3月25日だった場合、たった4~5日間で報告書を作成しなければならいことになる。

【 二段階報告のススメ 】

 「えー!そんなん無理―!」という当理事長の悲鳴が聞こえてきそうだが、これはさすがに筆者も同感。そのために本番後に徹夜するのは、少々理不尽だ。これを回避するテクニックとしてオススメしたいのが、「二段階報告」だ。報告書は、“いつ提出するか”で求められるレベルが違う。当然、提出が遅くなればなるほど、濃い内容を求められる。逆に、提出が早いほど、例えば実施直後の報告は「速報」として最低限の情報でも許される。企業が月度会議で求めているレベルは、実は速報ベースでも事が足りるのが実情。企業担当者だって、数日前に実施した企画を完璧に分析できているとは思っていない。そうした共通理解を一瞬で得る魔法の呪文「速報ベースのご報告ですが・・・」。翻訳すると「まだ終わったばかりでちゃんと検証できていないけど、概ねこんな内容でした。詳細部分は、検証次第では報告内容が変る可能性がありますが、ご了承下さい。」という意味。実に便利な呪文で、実際の企業内会議でもよく使われている。
 「二段階報告」とは、こうした事情を考慮して「速報」と「正式」二つの報告を行う方法だ。速報の場合は、少なくともイベント実施の翌日までに、下記のような内容をメールでもいいので報告しておく。A4一枚にまとめれば、なお良し。あくまで速報なので、ややこしい評価は不要、主観論かつごく短文でOKだ。ともかく「無事に終わって、良い感じでした。ご支援感謝」ということが伝われば、企業は安心するものだ。「後片付けや打ち上げもあるんだから作業時間が取れない!」とのご意見もあろうが、慣れればたいして時間はかからない。最近はモバイル環境だって進化している。携帯電話で日本中どこからでも「なう。」とつぶやくことが出来るご時世、そうした時間と機材を少し割けば、そう難しくは無いはずだ。

<速報報告に必要な内容例>
謝辞   :支援してくれた企画が終了したことへの感謝
問題点  :事故やトラブルの有無
データ  :5W1Hなどのデータ、来場者数などの規模感
所感   :関与者や会場の雰囲気、作品の完成度などの所感
特記   :報道取材の有無、その他
ビジュアル:写真を1~2枚

【 ひと手間かければ、効果がアップ 】

 ちなみに「報道取材の有無」は、筆者としてはぜひとも報告して欲しい項目。メディア露出は企業にとって一大事。記事掲載は、その企画にニュース性があったことの証拠であり、企画を評価する際の一つの指針となる。加えて、記事という「第三者の視点による評価」を得ることで、活動への理解を周囲に促す効果も大きい。記事が出ることが予め把握できていれば、事前に関与者に周知しておくことで、こうした機会を有効に活用することが出来る。事前に「知っている」か「知らない」かで、得られる成果は大きく違う。速報報告ならではのメリットを活かしていただきたいものだ。

 二段階報告は手間が増えるように感じるかもしれないが、速報報告の内容は、そのまま正式な報告のエッセンスとして活用できるから無駄にはならない。では、速報報告書で当面の督促は回避できたとして、正式な報告書はいつ出せばよいのか。これは、「然るべき区切りまで」と言うしかない。報告書の作成者や提出先によっても事情は違う。事業規模によっても報告書作成にかかる時間は一定ではない。大切なのは、双方にとって妥当だと思われる報告書の提出日を、事前に相談して決めておくことだ。そして、決めた期限は必ず守る。そうすれば提出を急かされることは、徐々に減っていくはずだ。

*次号は、手早く速報報告を作成するための「裏ワザ」をご紹介予定です。

2010年3月1日月曜日

報告書の書き方 Ⅱ ―情報のポージング―

【 情報のレイアウトとポージング 】

 先月号のコラムでは、報告書の逆三角形法構成モデルとして「伝えて!マッチョマン!」をご紹介した。なぜマッチョなのかというと、単にボディビルダーの逆三角形の肉体美をもじっただけでなく、実はもう一つ理由がある。ボディビルの審査会を思い出して欲しい。ボディビルダーは、直立不動で審査を受けるわけではなく、自信のある部分の筋肉を誇示するために各種ポーズをキメているはず。この「ポージング」の発想を、ぜひ逆三角形法にも取り入れていただきたいからだ。一体何のことかと思われるだろうが、あくまでイメージ。例えて言えば情報をレイアウトすることは、いわばマッチョな肉体を創り上げる筋トレ作業。同じ肉体でも、見せ方によって印象は変る。相手に響く報告書に仕上げるためには、鍛え上げた肉体をどう見せるかにも注意を払う必要があるということだ。

 筆者は「報告書は、“誰宛”に出すかによって内容が変化する」ものだと考えている。報告を受ける関与者は、それぞれに関与動機が違うからだ。例えば、アナタがメセナに積極的な大手企業の支援を受け、コンサートを企画したとしよう。それだけでは予算が足りず、付き合いのある地元企業から、自社製品である音響機材を無償(現物支給)で借りたとする。さて、この場合、2社に提出する報告書は、どんな内容になるだろうか。まず基本パターンとして、大手支援企業に行う報告のレイアウトを考えてみよう。

【 基本パターン:大手支援企業への報告例 】

 <タイトル 「○○○○○のご報告書」>
 第一段落:成否の概要・要約
 第二段落:必要データ(日時、場所、集客数など)
 第三段落:具体的な実施内容(作品の内容など)
 第四段落:成果の表現と評価(観客の反応、メディア露出など)
 第n段落:今後の展開見込み等(次回へのネタフリ)
 添付資料:予算消化の内訳、写真データ、パンフレットなど

 企画意図に賛同して支援した企業にとっては、第一に意図が達せられたのかどうかが気になるハズだ。(必ずしも“達成”だけが成果ではないが。)達成したなら、それがいつ、どのような形で実現されて、評価はどうだったのか、という順に報告を受ければ、きっと伝わりやすいだろう。企画全体の成果から判断した場合、「音響機材の無償調達」の報告優先順位は、残念ながら低い。協賛クレジットの表記を除けば、せいぜい予算書の中に記載される程度ではないだろうか。

【 変形パターン:地元企業への報告例 】

 一方で、地元企業にとっては、音響機材がちゃんと機能し、お客様に「良い音」でコンサートを楽しんでもらえたのかどうかが、最も気になるハズ。しかし、基本パターンの報告書には、そのことは書かれていない。担当者と面談の機会があれば口頭で補足することもできるが、書類とは企業内で補足説明を伴わずに回覧されることを想定して作るべきもの。結局企業担当者は、機材提供に関する補足を自分で付け足す羽目になる。もし担当者がこれを怠れば、機材協賛の成果は上司に伝わらない。そうして上司が「ウチ的には頑張って機材提供したのに、あまり必要で無かったのかも。。。」と協賛効果を疑問視しはじめたら・・・・。次回の協賛依頼は厳しいものになることは必至だ。地元企業宛の報告には、基本パターンではなく、機材協賛に関する段落を新たに設けるか、第一段落に音響機材についてなんらかの記述を加えるなどのアレンジが欲しいところだ。
つまり、直立不動の基本パターンでは下の方に位置せざるを得ない情報でも、提出する相手に合わせて意図的に目立たせるためにレイアウトを工夫する。これが「情報のポージング」(筆者造語)という概念だ。一方、逆のポージングとして、特に伝える必要が無い情報を意図的に省くことで、相手の印象をある程度左右できてしまうことも、覚えておいて損は無い。ポイントは、「変装」ではなく、あくまで肉体そのものは変化させない「ポーズ」であること。虚偽報告は言語道断なのでご注意を。

【 ポージングは、A4一枚で 】

 こうした観点から言えば、基本パターンの報告書を最初に作り、関与者ごとにレイアウトを変化させて、別々の報告書を提出することが親切であると言える。「そんな何種類も作れないよ!デザインだって大変だし」と思った方は、前コラムの「A4一枚資料」の事例を思い出していただきたい。提出先ごとに書き換えるのは、A4の方だけで十分。これなら、それほど手間はかからないだろう。あとは添付資料を重ねてホッチキス留めする順序を、A4のレイアウトに沿って変えれば良い。A4一枚方式には、こんなメリットもあるというわけだ。

 報告書とは、「相手の知りたいこと」「こちらが知らせたいこと」「知らせる必要の無いこと」の3つの視点からアレンジが許されるべきもの。今後の展開を有利に進めるための戦略ツールであると理解すれば、報告作業もいくらか気合も入ろうというものだろう。少なくとも「出さなきゃダメだから出す」という受身の姿勢では、せっかくのコミュニケーションの機会を減少させてしまう。非常に勿体無い話である。
*次号に続く



*ポージングの例。
①では、4段落を強調し、3段落を意図的に目立たなくしている。

2010年2月8日月曜日

報告書の書き方 Ⅰ

 年度末が近づいてくると、報告書の提出期限に焦る方も多いのではないだろうか。本コラムでも「報告書は重要!A4一枚にまとめて書け!」とは繰り返し述べてきたが、じゃあ具体的にどうすれば良いかは書いていなかった。というわけで、今回から「企業に理解されやすい報告書」を書くためのテクニックを、シリーズでご紹介しよう。*講座方式のため、しばらくフザケタ小見出しは封印します。

【 基本テクニック「逆三角形法」 】

 テクニックの中で、筆者が最も重視しているのが「逆三角形法」。簡単に言えば「結論から先に伝えよ」というコミュニケーション術。面接のHOW-TO本等にもかかれており、企業人なら一度は意識したことがあるハズだ。例文を見てみよう。

<例文A 理事長と副理事長の通常の会話>

副理事長
問1) 眠そうだね。昨夜、何してたの?

理事長
答1) 宿題だったワークショップの企画を考えてたら、煮詰まっちゃって。
答2) ネタ探しに本屋に寄ったら、好きな作家の新刊を見つけちゃって。
答3) 結局自宅で、その本を朝まで読んじゃって、寝てないんです。

<例文B 理事長と副理事長の逆三角形法の会話>

副理事長
問1) 眠そうだね。昨夜、何してたの?

理事長
答1) 朝まで自宅で読書してて、寝てないんです。
答2) 帰りに寄った本屋で、好きな作家の新刊を見つけたもので。
答3) ちなみに宿題のワークショップの企画は、まだ。。。

 どちらの文例も内容は同じ。ただ、伝える順序が違うだけだ。例文Aの場合、もし答1)の時点で会話が遮られた場合、理事長が眠い理由はWSの企画を考えていたから、答2)の時点なら本屋で夜遅くまで立ち読みしていたと誤解されてしまう。眠い理由は、「自宅で読書していて寝てない」ことなのだから、これが的確に伝わらなくてはならない。その次に、読書に到った理由や背景。WSの企画云々は、実は問1)とは直接関連性の無い情報なので一番最後。このように情報を重要な順にレイアウトするのが逆三角形法、起承転結の逆だ。こうしてみると“たいしたことないじゃん”と思われるかもしれないが、これを常に意識して会話するのは意外と難しい。まして、長文を逆三角形法で構成するには訓練が必要で、それが出来るのは企業人でもそれほど多くない。

【 伝えるためのスキル 】

 ではなぜこんなスキルが必要なのだろうか。それは「資料なんて、まともに読んでもらえないと思うべき」という考え方に由来する。誰だって忙しい。日々膨大な情報がやり取りされる企業内で、資料なんて最初の部分だけをナナメ読みされて、興味が無ければそのまま捨てられてしまうことだって少なくない。ならば、せめて一番伝えなければならない内容だけは誤解なく伝え、一見しただけで「その資料は読む価値がある」と思わせるようにしたいもの。逆三角形法とは、そうした必要性からビジネススキルとして定着してきたように感じられる。

 難易度の高いスキルだが、これを企業の中で日常的に実践している部門が広報部門。話が少々脱線するが、企業広報担当者は新聞等のメディアに情報を出す際、「プレスリリース」と呼ばれる紙資料を作成している。これは、伝えるべき情報を逆三角形法で記述したもので、広報担当者にとっては“あたりまえ”のスキル。ちなみに、(社)企業メセナ協議会の2008年度調査によれば、メセナ担当部門をこの広報関連部門に設置している企業は回答企業の42.8%にも上るのだとか。つまり、NPOが協賛窓口として書類を提出するのは、「伝えるための文章」の達人相手ということになる。

【 報告書への展開 】

 では、実際に逆三角形法の報告書とは、どのようなものだろうか。何も全て文章で書けというわけではない。伝えたい内容を項目ごとに段落や箇条書きの塊にして、それを伝える優先度が高い順にレイアウトすればOK。当然、最も重要なのは「結論」なのだから、これを第一段落とする。そうすれば、書類のタイトルと第一段落を読むだけで、その企画のおおよその結果が理解できるようなる。第2段落以降は、日時や参加人数などの「データ」、「報道結果」、「参加者の反応」などを優先順位を考慮して配置する。
 「そんなにたくさん、A4一枚に書ききれないよ!」と思われるだろうが、A4一枚に記述するのは、あくまで各項目ごとに表現したい内容の要約。項目の中で重要度の低い情報を省くことで、「情報の明瞭度」が向上し的確に主旨が伝わるようになる。その結果書ききれなかった部分は「補足資料」として添付れば良い。理事長との会話の例で言えば、夜通し読んだ本のタイトルや作者、発行年月日などの必須情報はA4に書き、本の内容や感想などの詳しい内容は「補足資料」。そうすれば、その本を知っている人間にとってはA4一枚だけで“ああ、あれか”と思うだろうし、知らない人間にも不足なく情報を伝えることができる。
 A4一枚の報告書とは、報告全体から見た場合に「最も伝えたい内容の集合体=報告総量の第一段落」として機能すべきものだと言うことを、覚えておいていただきたい。

 そして、ぜひ報告書に付け加えたいのが、「所感」や「今後の方針」など。これらは直接的に優先順位を判断できない内容だが、報告書のスパイスとして重要なもの。報告書は終わりの挨拶ではなく、次回の協賛依頼へのネタ振り。成功した企画なら、相手の機嫌の良いうちに次の展開を匂わせておくだけで、次回の協賛依頼のハードルがぐっと下がるのだから。(次号に続く)


*筆者作、逆三角形の文章構成モデル「伝えて!マッチョマン!」
 なぜこのようなモデルなのかは、次回以降のコラムにて。

2010年1月5日火曜日

年末年始の企業の風景

 あけましておめでとうございます。本コラムも開設から半年、なんとかネタ枯れせずに続けてこられました。これもみなさまのおかげ。本年も引き続きのご愛顧をお願いいたします。

 さて、本コラムの読者なら、企業となんらかの形で接触した経験をお持ちの方も多いはず。ではその中で、パートナー企業や攻略企業宛に、訪問・電話・メールを問わず、なんらかの「年末年始のご挨拶」をした方は、どれくらいいるだろうか。「儀礼はちょっと。。。バタバタしてたし、直近の用なんて無いんだから、別に良いじゃん」とのご意見もごもっとも。しかし、企業の年末年始にとって「ご挨拶」がビジネスに一定の役割りを果たしていることも知っておいて損はない。今回は、年末年始の企業の風景についてご紹介しよう。

【 年賀の呪文はスキトキメキトキス 】

 「お年賀でございます。」日本語として正しいかどうかは別にして、毎年呪文のように繰り返される言葉。企業には、いろんな取引先や関与者がいる。その方々が入れ替わり立ち代りやってきては、この呪文を唱えて帰っていく。もちろん、企業でも営業担当者の場合は、得意先に出かけていき、同じ呪文をつぶやいている。基本的には、仕事の受注先が発注先を訪問するのが流儀だ。別に会って呪文を唱えたからといって、そうそう具体的にビジネスが進展するわけではない。しかも、下手をすればその10日前の年末に「御社はいつからお休みですか?」と、これまた違う呪文を唱えながら同じ相手と面談しているのだから、話題を見つけるのも一苦労だ。それでも目指す相手と会えれば良いが、営業担当で一日に十数件に挨拶まわりをする場合、いちいちアポの調整なんてしていられない。そこで、名刺に「謹賀新年」と朱色のハンコを押し、ともかく相手企業の受付に預けて「挨拶に来た証拠」を残して帰る。なぜここまでするのだろうか。
 その理由は、「ご挨拶」が単なる挨拶行為ではなく、取引先と自社との関係性を示す一種のパフォーマンスと見なされているからだ。つまり、年明けのどれくらい早い時期に、どれくらい上位の役職の人物が挨拶に行くかで、こちらが相手をどれだけ大切に考えているかを理解させる、そのための重要な場が「ご挨拶」というわけだ。だからとりわけ重要な取引先に対しては、担当者と直属上司は言うに及ばず、相手先と特段の接点の無い役員、ときには社長まで勢揃いして、全員で呪文を唱えに行く。また、呪文の受け手がどの程度の役職者を応対に出すかも、これまた相手をどの程度重要視しているかで決まる。「ご挨拶」を見れば、お付き合いの深さと力関係が一目瞭然というわけだ。こうした性格上、双方の役職者同士が、そこで始めて名刺交換することも少なくない。「ご挨拶」は、なかなか顔をあわせる口実のない役職者同士が、大した話題がなくても大手を振って面会できる貴重な場とも言える。万一、その場での四方山話から思わずビジネスのタネが転がり出ればシメたもの。担当者は後日「ご挨拶の際に出た件でご相談が、、、」と攻勢をかけ、企業側だって自分の上役の手前、その面談要求を断ることはできない。年末年始の儀礼は、相手先との関係深化や、新たな関係構築のきっかけとして、重要な意味を持っている。

【 You gotta chance! 】

 こうした企業の風習は、企業とNPOのパートナーシップにも応用出来ないだろうか。もちろん、勢揃いしての企業詣までは不要だが、「年末年始」に限らず、企業的な風習や儀礼を上手に活用すれば、企業接触のチャンスは拡大する。「企業担当者とコミュニケーションが深められない」ことに悩むNPOも少なくないはず。一度は訪問し「またお伺いします」と言ったものの、その後何の連絡も出来ずにいる企業は無いだろうか。企業攻略は、長期的視点で根気良くやるのがスジ。かといって何のネタも無しに企業担当者にアポをとるのは確かに気が引けるし、企業だって会ってくれない。しかし、「年末年始のご挨拶」を口実にすれば、特別な事情が無い限り企業には断る理由が無い。むしろ、先に紹介したように「会って当然」、来てくれるというだけで相手がこちらに誠意を感じてくれるのだから、こんなにオイシイ機会は少ないはずだ。直接会う機会さえ得られれば、団体の近況報告をするもよし、自団体の公演に招待するもよし。顔をあわせたコミュニケーションの効果は絶大で、電話や郵送でハードルの高かった行為を、難なく実現することができる。加えて、相手企業の状況や、今後の社会貢献活動の見通しや要望を聞きだすことができれば、それをネタに再度訪問することもできる。こうしてコミュニケーションの機会が連鎖していけば、相手と自分の間にある壁は、会うたびに低くなっていく。ただし、この意図で「ご挨拶」するなら、仕事始め早々は避けること。本業のご挨拶が一段落した、二週目程度がベストだ。
 また、その期間に会いに行くことが難しければ、メールか電話を一本入れ、ご機嫌伺いと近況報告をしておくだけで随分と印象が違ってくる。少なくとも「支援して欲しいときだけしか連絡してこない」というような不本意な解釈を、これは企業側にも誤認があるが、される危険性は格段に減少するはずだ。

【 まためぐり合えたのは きっと偶然じゃないよ 】

 パートナーシップは恋愛に似ている。気になる相手と仲良くなるために、あれこれ口実を探すのは誰しも経験することだが、自分の常識の中だけで探してはいないだろうか。相手にとっても納得性のある口実を探すのは、実はけっこう難しいもの。下手をすれば下心を見透かされ拒否される。であれば、相手の流儀の中でも探したほうが手っ取り早く、相手にとって違和感が無い場合だってある。企業の風習なんて、どこも大差ないもの。パターンさえつかめば、生身の異性攻略より、よっぽどシンプル。なにせ、良く効く呪文は、簡単に手に入るのだから。