2010年1月5日火曜日

年末年始の企業の風景

 あけましておめでとうございます。本コラムも開設から半年、なんとかネタ枯れせずに続けてこられました。これもみなさまのおかげ。本年も引き続きのご愛顧をお願いいたします。

 さて、本コラムの読者なら、企業となんらかの形で接触した経験をお持ちの方も多いはず。ではその中で、パートナー企業や攻略企業宛に、訪問・電話・メールを問わず、なんらかの「年末年始のご挨拶」をした方は、どれくらいいるだろうか。「儀礼はちょっと。。。バタバタしてたし、直近の用なんて無いんだから、別に良いじゃん」とのご意見もごもっとも。しかし、企業の年末年始にとって「ご挨拶」がビジネスに一定の役割りを果たしていることも知っておいて損はない。今回は、年末年始の企業の風景についてご紹介しよう。

【 年賀の呪文はスキトキメキトキス 】

 「お年賀でございます。」日本語として正しいかどうかは別にして、毎年呪文のように繰り返される言葉。企業には、いろんな取引先や関与者がいる。その方々が入れ替わり立ち代りやってきては、この呪文を唱えて帰っていく。もちろん、企業でも営業担当者の場合は、得意先に出かけていき、同じ呪文をつぶやいている。基本的には、仕事の受注先が発注先を訪問するのが流儀だ。別に会って呪文を唱えたからといって、そうそう具体的にビジネスが進展するわけではない。しかも、下手をすればその10日前の年末に「御社はいつからお休みですか?」と、これまた違う呪文を唱えながら同じ相手と面談しているのだから、話題を見つけるのも一苦労だ。それでも目指す相手と会えれば良いが、営業担当で一日に十数件に挨拶まわりをする場合、いちいちアポの調整なんてしていられない。そこで、名刺に「謹賀新年」と朱色のハンコを押し、ともかく相手企業の受付に預けて「挨拶に来た証拠」を残して帰る。なぜここまでするのだろうか。
 その理由は、「ご挨拶」が単なる挨拶行為ではなく、取引先と自社との関係性を示す一種のパフォーマンスと見なされているからだ。つまり、年明けのどれくらい早い時期に、どれくらい上位の役職の人物が挨拶に行くかで、こちらが相手をどれだけ大切に考えているかを理解させる、そのための重要な場が「ご挨拶」というわけだ。だからとりわけ重要な取引先に対しては、担当者と直属上司は言うに及ばず、相手先と特段の接点の無い役員、ときには社長まで勢揃いして、全員で呪文を唱えに行く。また、呪文の受け手がどの程度の役職者を応対に出すかも、これまた相手をどの程度重要視しているかで決まる。「ご挨拶」を見れば、お付き合いの深さと力関係が一目瞭然というわけだ。こうした性格上、双方の役職者同士が、そこで始めて名刺交換することも少なくない。「ご挨拶」は、なかなか顔をあわせる口実のない役職者同士が、大した話題がなくても大手を振って面会できる貴重な場とも言える。万一、その場での四方山話から思わずビジネスのタネが転がり出ればシメたもの。担当者は後日「ご挨拶の際に出た件でご相談が、、、」と攻勢をかけ、企業側だって自分の上役の手前、その面談要求を断ることはできない。年末年始の儀礼は、相手先との関係深化や、新たな関係構築のきっかけとして、重要な意味を持っている。

【 You gotta chance! 】

 こうした企業の風習は、企業とNPOのパートナーシップにも応用出来ないだろうか。もちろん、勢揃いしての企業詣までは不要だが、「年末年始」に限らず、企業的な風習や儀礼を上手に活用すれば、企業接触のチャンスは拡大する。「企業担当者とコミュニケーションが深められない」ことに悩むNPOも少なくないはず。一度は訪問し「またお伺いします」と言ったものの、その後何の連絡も出来ずにいる企業は無いだろうか。企業攻略は、長期的視点で根気良くやるのがスジ。かといって何のネタも無しに企業担当者にアポをとるのは確かに気が引けるし、企業だって会ってくれない。しかし、「年末年始のご挨拶」を口実にすれば、特別な事情が無い限り企業には断る理由が無い。むしろ、先に紹介したように「会って当然」、来てくれるというだけで相手がこちらに誠意を感じてくれるのだから、こんなにオイシイ機会は少ないはずだ。直接会う機会さえ得られれば、団体の近況報告をするもよし、自団体の公演に招待するもよし。顔をあわせたコミュニケーションの効果は絶大で、電話や郵送でハードルの高かった行為を、難なく実現することができる。加えて、相手企業の状況や、今後の社会貢献活動の見通しや要望を聞きだすことができれば、それをネタに再度訪問することもできる。こうしてコミュニケーションの機会が連鎖していけば、相手と自分の間にある壁は、会うたびに低くなっていく。ただし、この意図で「ご挨拶」するなら、仕事始め早々は避けること。本業のご挨拶が一段落した、二週目程度がベストだ。
 また、その期間に会いに行くことが難しければ、メールか電話を一本入れ、ご機嫌伺いと近況報告をしておくだけで随分と印象が違ってくる。少なくとも「支援して欲しいときだけしか連絡してこない」というような不本意な解釈を、これは企業側にも誤認があるが、される危険性は格段に減少するはずだ。

【 まためぐり合えたのは きっと偶然じゃないよ 】

 パートナーシップは恋愛に似ている。気になる相手と仲良くなるために、あれこれ口実を探すのは誰しも経験することだが、自分の常識の中だけで探してはいないだろうか。相手にとっても納得性のある口実を探すのは、実はけっこう難しいもの。下手をすれば下心を見透かされ拒否される。であれば、相手の流儀の中でも探したほうが手っ取り早く、相手にとって違和感が無い場合だってある。企業の風習なんて、どこも大差ないもの。パターンさえつかめば、生身の異性攻略より、よっぽどシンプル。なにせ、良く効く呪文は、簡単に手に入るのだから。