2009年9月1日火曜日

Iモードと、マナーモード

【 はぁ〜 キッチリ♪キッチリ♪キッチりなっ♪ 】

 企業に支援を求める際、直接会って熱意を伝える重要性は「ご依頼は計画的に」でもご紹介した。加えて、企業にとって直接NPOと会わねばならない理由は、実はもうひとつある。企画の内容ならば、企画書を読めば判る。直接会って確かめたいのは企画書に現れない要素、曖昧な表現だが「相手団体が、キッチリしているか」ということを、企業は案外気にしているものだ。「心外な!」とお叱りを受けそうだが、そもそも企業人とNPOではキッチリのポイントが違う。しかも、NPO本来の活動に関することではなく、些細な周辺状況を指していることが多いだけに、厄介だ。
 通常の企業活動をしている限り、アートNPOと接する機会など無いに等しい。メセナ未実施企業にとって、イキナリ支援を訴えてきた見ず知らずの団体に対して、多少なりとも不安を抱くことも無理のないことだろう。不安は積極的な判断を鈍らせ、本来なら可能なはずの協働への道を閉ざす。せっかく得た面談の機会に不安感を払拭できれば良いが、「やっぱりね」とさらに印象を悪化させてしまうような立ち居振る舞いは避けなくてはならない。そうならないためのネタバラシ。本稿では、企業が言う「キッチリ」について解説したいと思う。

【 企業訪問は、“マナー”モードで 】

 悪印象の代表例は「ビジネスマナーがなってない」というもの。ビジネスでは無いのだからそんなもの必要ないともいえるが、これを、「企業人同士が接するときのマナー」と言い換えると、合点がいくだろうか。企業人同士のコミュニケーションには、共通のマナーが存在する。「上座はどこか」「名刺は相手より下から出す」という基本に始まり、エレベーターの乗り方ひとつをとってみても、標準と違う立ち居振る舞いに対しては「なってない」とされてしまう。せめて初歩のビジネスマナー本程度は読んでおきたいところだ。
 また、服装も大切なポイントだ。企業訪問の際、「メタボリックにご用心」で書いたような、個性的な格好は避けたほうが無難。かといってビジネススーツに身を固める必要ないが、せめて襟付きのシャツか、ジャケットを羽織るくらいの気遣いは求めたい。メセナ担当者本人から、服装についてとやかく言われることはおそらく無いだろう。しかし、企業内には、他の社員だってたくさんいる。「あの派手な服装の人は誰だ?仕事中に何の話をしてるんだ?」と怪訝に見られ、あとで要らぬ詮索をされるのはメセナ担当者の方。服装に譲れないポリシーがあるならやむをえないが、「つなぎ手」としてのアートマネージャーの職務にあるときは、パートナーに要らぬ気遣いをさせない配慮をして損はない。

【 あれもI、これもI、それもI、きっと愛 】

 立ち居振る舞い以外にも、自団体を紹介するための「PRツール」も重要だ。これらはひとたび相手先に渡れば、関与者間で回覧され自身に代わって自団体を語る資料となる。担当者との面談を乗り切るためのモノではない。企業に残していく「私(=I)の分身」だと思って、愛情をもってキッチリと制作して欲しい。
 まずは名刺。ビジネスでは受付に名刺を差し出した上で名乗るのが流儀。そうすれば、受付担当は、企業名や氏名を間違えることなく呼び出す相手に伝えることができる。この名刺ひとつをとってみても、アート関係には特徴的なものが少なくない。「名刺の字が小さく、名前が見つけにくい」「形状が普通と違い、名刺ホルダーで整理しにくい」「肩書きや所属がたくさん書いてありすぎて、ドコに連絡していいか迷う」などなど、思い当たるフシは無いだろうか。対して、わかり難い名刺はNGの企業側。「ワタクシ、こーいうもんです」と、ぱっと見せるだけで自己紹介できる体裁が求められる。自分の名刺が企業の常識と違うと思うなら、せめて口頭で補足情報を伝えるなど、相手への気遣いを示しておくほう良いだろう。
 次に、「団体概要書」。実際にはA4用紙にプリントアウトした資料の場合が多く、「そんなものありません」という団体も少なくない。しかし、これが「キッチリしている」だけで、団体の信頼度は格段に向上するものだ。「企業案内冊子は、企業の顔です」とは印刷会社の宣伝コピーだが、これは間違いではない。「飛び込み営業では、ちゃんとした企業案内冊子が無いと信用してもらえない」「プリントアウト資料では捨てられるが、キレイな冊子なら捨てにくい」とは、某社営業担当者の言。豪華なものは必要ない、ページ数がたとえ少なくても、やはりきちんとした印刷冊子を揃えておきたいものだ。同時に、団体のウェブサイトも重要だ。昨今は、何を調べるにもまずインターネット。電話で企業にコンタクトをとった場合など、即座にネットで団体名を検索しチェックされると思ったほうが良い。また、企業内の連絡事項も、電子メールにURLを貼り付けて情報共有するのが通例。ウェブサイトはこうした情報回覧において、団体概要書と同じ役割りを果たす。私的ブログではなく公式サイトとしての体裁を為しているか、必要な事項がきちんと記載されているか、頻繁に更新されているかなどが運営体制の確実さを感じる目安となる。ウェブサイトを軽視せず、ある程度気合を入れて管理していただきたい。

【 頼りなく二つ並んだ、ふぞろいなツールが 】

 どの案件でも共通して使う名刺や団体概要書に加えて、案件ごとの「個別PRツール」への気配りも重要だ。例えば、個別の企画書やプレゼン資料。最近は「PowerPoint*」などのプレゼンソフトを使用する場合が多いが、自団専用のテンプレートを作成している団体は少ない。ビジュアルに優れた資料は人間心理として納得性が増すものだが、プレゼンのたびにイチからデザインしていたのでは時間が足りない。そこで、あらかじめデザインしたテンプレートを作成しておき、それにテキストを打ちこんで仕上げる方法がオススメだ。時間が節約できるだけでなく、ビジュアル的な印象も向上する。特に予算がかかるワケではないので、ぜひ、実践していただきたい。
 これらのツールの活用において最も大切なことは、それぞれのツールにおいて、「同じ団体のものである」ということがデザイン的に訴求できているかどうかだ。個別のデザインがいかに素晴らしくても、それが不ぞろいでは効果が薄い。団体のシンボルマークやアイキャッチを統一して使っているか、シンボルカラーが印象的に使われているかなど、デザインをある程度統一し、同じイメージを訴え続けることを考慮して欲しい。同じイメージに複数回接すれば、刷り込み効果はおのずと高くなる。印象に残ることは、なにかと有利。別の機会に資料を目にした際、「これ、知ってる」という既知感は安心感につながる。加えて、こうしたものに統一感があることは、代表者の目が細部にまで行き届いている証。「キッチリ感」は格段に増すはずだ。

【 “I”と“マナー”のバランスを 】

 冒頭でも述べたが、本稿でご紹介したのは、いずれも企業とNPOとの協働において本質ではない些細なことだ。だからこそ、企業側もあまりおおっぴらには言わず、NPO側もそこまで気にしなかったということだろう。しかし、こうした些細な常識や流儀のズレが、本質論にたどり着く前の障害となりえるもの事実。それでなくても違う点が多い両者、コミュニケーションのハードルが初めから高いのだから、せめて余計なハードルはできるだけ下げて面談に望みたいものだ。
 「私のスタイル」を堅持することは大切だが、一方で相手に合わせるマナーも必要。うまくバランスをとって、自分なりの企業訪問スタイルをぜひ確立して欲しい。すべては本来不要の詮索を企業にさせず、本質を熱意をもって訴えるため。「くだらないこと」と一蹴せず、ある程度キッチリとしておくことも、企業訪問の心得なのだから。

*PowerPointは、Microsoft社の登録商標です。



























KADのH.P. 団体概要書、提案書、名刺。
同じテイストでデザインされている。