2009年8月1日土曜日

ご依頼は計画的に

【 支援要請は突然に 】

「今日中にお返事下さい。こちらも切羽詰っておりまして・・・」即日融資の申し込みではない。声の主は、協賛を依頼するNPO。しかも、初めて電話を受けた日の出来事だ。心境は察するに余りあるが、さすがに「どストレート」なご依頼に面食らう。いつもなら「これは、フィクションである」と続けるところだが、今回は正直に「実話です」といってしまおう。双方の名誉のために付け加えるが、該当団体には後日当社までご足労いただき、「企業への協賛依頼のノウハウ」についてキッチリとお伝え(!?)させていただいた。以後、その企業のパートナーNPOとして、小さいながらも協働プロジェクトを持つに至っている。

メセナ実施企業として認知されてくると、このような「支援要請」がしばしば舞い込んでくる。多くは「恋せよ!アートマネージャー」にも書いたような「量産型の企画書」が送付されてくるケース。もちろん、これでも通用する場合は多い。年間の予算枠にしたがって、寄せられる企画の中から支援先を選択する方針の企業・団体に対しては、企画内容さえしっかりしていれば十分議論のテーブルに載ることができる。ただ、少なくとも提出の仕方と時期には注意を払う必要がある。いきなり送りつけるのはNG、電話であらかじめ担当者とコミュニケーションをとる配慮は必須だ。企画書提出の締め切りや書式がある場合は、それに準じる。そうでなくても、次年度予算を決める時期、たとえば3月決算の企業であれば年明けまでには、「来年はヨロシク」と企業担当者とすり合わせをしておくべきだ。即日支援などあり得ないと思って間違いない。
一方で、例えばメセナ未実施を卒業したばかりの企業、多くの場合メセナの専任部署もなく、あらかじめ決められた予算枠も設定されていない企業に対しては、量産型企画書の効力は薄い。しかし、こうした企業の攻略こそが、協働事例拡大への道。NPOの方々に奮起していただくためにも、お馴染みのフィクションを交えて、もう少し詳しく解説したいと思う。主人公は、すっかりお馴染みの中堅企業の社会貢献・メセナ担当者(兼任)だ。

【 めぐるめぐるよ、出会いと別れを繰り返し 】

「申し訳ありませんが、今回のご支援は難しいですね。まずは、貴団体のご活動を当社も勉強させて頂いたうえで、もう少し長い目でお付き合いを考えたいのですが・・・」これまでお付き合いがなかったNPOから、協賛依頼の企画書を受け取った企業メセナ担当者。後日、かかってきたNPO代表者との電話のやりとりだ。返答1)「そうですか・・・では、また何かありましたら・・・」残念な様子で電話を切ろうとする代表者。日本語とは便利なもので、ほぼこの言葉は「ハイ、それまでョ」の意味で使われている。経験上「また何か」があることは極めて稀だ。筆者の場合、できるだけ「団体資料や、イベントチラシがあれば送って欲しい」とお願いするようにしているが、それでもすぐに資料を送っていただける事例は2~3割といったところか。幾度となく繰り返される、まことに残念なファーストコンタクトである。
その企業とのパートナーシップを望むなら、ぜひこう食い下がっていただきたい。返答2)「では、今後もお付き合いさせていただきたく思いますので、ご挨拶にだけでもお伺いします」一度顔さえ合わせてしまえば、次回からの支援要請のハードルが、ぐっと下がる。企業内に、直接の顔見知りができることは、大きなメリットだ。もし、これでも門前払いをされるようなら、その企業担当者とはご縁が少ないと思ったほうが良い。熱意の無い担当者とは、今後予想される様々な協働のための困難を、共に潜り抜けることなんて出来そうもない。それに、企業として新しい出会いに対する門戸は、常に開いておくべきだ。

【 きっとそうなんだ、御社だったんだ 】

後日、企業の商談スペース。スタッフを引き連れやってきたNPO代表者から、企画についてのプレゼンを受ける企業担当者。何かがもの足りなく感じ、こう切り出した。
「ところで、なぜ弊社を支援先に選んでいただいたのですか?」「えっ・・・」予期せぬ質問にフリーズする代表者。企画の趣旨を説明し終えた段階で、「支援の必要性を訴えられた」と思い込んでいた様子だ。もちろん、企画の社会的必要性は理解できている。我ながら意地悪な質問だと思うが、プレゼンに足りないのは、A社でもなく、B社でもなく、「当社が」支援するべき理由なのだ。しばしの沈黙の後、大抵の返答は「御社は社会貢献に積極的」「企画の舞台が地元」、「イメージアップになる」に集約される。これでは、同じ地方のメセナ実施企業は、ほぼ当てはまることになる。つまり、その企画にとって当社は、数ある支援企業の選択肢の中の一つ。逆もまた真なり、企業にとってその企画は、企画Aでも企画Bでも良い、数ある選択肢の中の一つにしかなりえないのだ。「当社」と「企画」がリンクする必然性が見当たらない。これでは、強く訴えるプレゼンにはならない。
実際には、まず企画が先に存在し、その支援先を探したところ当社に行き着いた、というのが本音だろう。だとしても、強いプレゼンにするために、そこからもうひと手間をかけることを惜しんではいけない。「手間」とはつまり、相手企業をどれだけ研究してプレゼンに望むか。では、具体的にはどうすれば良いのか。まずは、狙いをつけた企業のウェブサイトやCSRレポートを読み込んで、社会貢献やメセナの傾向を把握する。そうすれば、その企業との「相性」が見えてくる。相性とは、支援のジャンルや方針が企画と近いかどうか、また、未着手のジャンルであっても企業の本業との関連性が深いかどうかなどだ。相性が良さそうな企業が見つかれば、できるだけ相手側の「要素」を引き合いに出しつつ、支援の必要性を訴えるのがコツだ。「御社の持つ○○が、この企画には必要なんです」「御社の○○という方針を、さらに推進する企画です」理論の正否はこの際問題ではなく“こじつけ”でも十分。肝心なのは「下手な鉄砲」を打っているのではなく、企業研究をじっくりした上で「御社がベストパートナー!」だと信じて提案しているのだという「熱意」を感じさせることだ。それができれば、たとえその企画では支援を得られなくとも、今後の協働候補として、好意的なお付き合いが続けられるはずだ。

【 熱意をもって、じっくりと 】

「初めて訪問した企業で、事前に読み込んでボロボロになった相手企業のCSR冊子をテーブルに出したとたん、すごく親切にお話してくれるようになりました」とは、某NPO理事長の経験談。ここまで勉強してきたのかと、企業担当者はさぞ嬉しかったことだろう。こんなことだけで、相手の印象は好転するものだ。
パートナー探しは、恋愛に似ている。クリスマス前夜、2席予約済のレストランに連れていく相手を求め、手当たり次第の初対面に告白するような手法では、上手くいかないばかりか人格を疑われかねない。せめて来年のクリスマスに向け、じっくりお友達から初めてみてはどうだろうか。企業も人の集合体。「他の誰でもない、アナタとお付き合いしたいんです!」と訴えられて、心が動かないわけがない。もちろん、諸事情で「ゴメンナサイ」の場合もあるが、これもまた恋愛と同じ。相手を恨まず、口説くための次の一手を考えて欲しい。